海神
| 海の男と言えば、屈強なイメージがある。だが、今、望美を抱き締めて人いる人はどちらかと言えば、しなやかな感じがする。 「ん……」 けれど、その腕は簡単に望美を閉じ込めるだけの力を持っていて。天女を空には返せないから…と、いつかヒノエはそう言った。 (私はそんなに綺麗じゃないよ……) 甘い囁きや、蕩けるような口づけに酔い痴れながらも、心のどこかで違う自分が囁きかける。時空を越えて、再び巡り合えた人。だが、それを知るのは望美だけ。 今、こうして、愛しい人の腕の中に抱かれていても、きっと忘れない。あの炎の中から、一人時空を越えた時の瞬間を。それは決して消えない傷跡のように、深く残るのだろう。 「ねぇ、何を考えてるの?」 「え?」 「オレに抱かれながら、他の事を考えられるなんて、随分余裕がでてきたね」 「よ、余裕って……」 ヒノエの言葉に望美は真っ赤になる。余裕なんてあるはずがない。いつだって、ヒノエの与える熱に心も身体も蕩かされているのに。 「じゃあ、おまえは何を考えてたの?」 「え……」 二度目の問い掛けに望美は口をつぐむ。言えるはずもないこと。真実を知るのは望美一人だけ、だ。そんな望美の態度にヒノエは口の端を微かに上げて笑った。 「言えない? いいたくない?」 「……」 返答のしようなどないに等しい。そんな望美にヒノエはゾクリとするほどに妖艶な笑みを浮かべてみせた。 「ヒノエ、くん……?」 戸惑いと言う名の本能が、自然と逃げ出せと命じる。だが、その本能に身体が反応する前に、ヒノエが望美の両腕を片手で拘束した。 「ヒノエくん?!」 「言えないんなら、身体に聞くから」 鮮やかなほどの笑顔とは裏腹のとんでもない宣告に望美はじたばたと暴れだそうとするが、あっけなくヒノエに押さえつけられてしまう。 「や…っ……」 敏感になった肌をあおるように動く指先。意識が飛びそうで飛ばないぎりぎりのラインでヒノエは望美の中にくすぶる熱をあおっていく。 「ヒ、ヒノエく、ん……」 「ねぇ、姫君?」 耳を甘く噛んで。舌を這わせて。吐息を注ぎ込んで。 「言ってごらんよ? ほら……」 ふぅっと、甘く囁きかけて。ゆっくりと望美のこわばりを解きほどいていく。 「あ……」 蕩けていきそうな意識の中、それでも望美はまっすぐにヒノエを見つめて。ゆっくりと唇を開いた。 「道を…本当はあるべきはずだった道を、曲げてしまって、違う道を作ったとしたら、本当にあるべき道だった先はどうなるんだろうって……」 意味は多分通じない。望美にしか分らないこと、だ。そう思い、瞳を逸らす望美の髪を一房取ると、ヒノエはそっとそれに口づけを落とした。 「それがおれに抱かれている最中に考えていたこと? 何か不満ある?」 「あるはずないよ! 私、幸せだもん」 「ココロも、カラダも?」 「馬鹿……」 揶揄が混じった囁きに耳まで真っ赤になる。ただでさえ、睦事の最中だ。こうしてヒノエに抱かれることにもまだいっぱいいっぱいであるのに。 「いいことを教えてやるよ、姫君」 「……?」 望美を見つめるヒノエの瞳には、先ほどまで、望美を求めていた情欲や愛情の色はなく、真摯なもの。 「お前は六波羅でオレに初めて出会った時、言ったよな。オレに会いに来たんだって……。オレはお前と始めてであったはずだが、お前はそうじゃなかった。オレがヒノエだと確信して、俺に会いに来た、と。そのことと関係あるんだな?」 「ヒノエくん……」 気づいているんだ、と望美は思った。白龍からもらった逆鱗を使って、時空を超えて、もう一度ヒノエにめぐり合った。もう、二度と悲しい運命をたどらないように。それは誰にも話してはいないけれど、ヒノエはあの出会いの言葉から、自分たちの本当の出会いを望みだけが抱えていることに気づいたのだ、と。 「お前が話せるようになるまで、俺は待つ……。けどな、これだけは覚えておけ」 「覚える……?」 「どんな出会いがあっても、どんな道があったとしても……。お前はこのオレの腕の中にとらわれる運命だったんだ。どんな道をお前が選んでいようと、俺はお前を手に入れる……。違うかい、姫君?」 「何よ、それ……。傲慢……」 ヒノエの言葉に思わずそんなことをつぶやいてしまう望美にヒノエは鮮やかに微笑んで。 「人の上に立つんなら、多少の傲慢さは必要さ。こういうオレは嫌いかい?」 「嫌いだったらどうする?」 「そしたら、惚れさせるさ」 ヒノエらしい言葉に望美はくすりと笑い、ヒノエの首に腕を回す。 「望美?」 「じゃあ、溺れさせて……。これが運命だったんだって、信じさせてよ……」 「望むのなら、一晩中でも?」 髪を一房すくい、口付けを落として。 「オレとお前は運命だったって、その身体に教えてやるよ……」 その囁きとともに、ゆっくりとその運命に二人はまた酔いしれる。そして、夜は更ける……。 |
これ、書きかけのままで放置されて、数ヶ月……。すまん、ヒノエくん……。ありがちな話ですみません。
雰囲気エロを目指したはずなんですけどねぇ……(遠い目)
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